さて、実際に練習を重ねていくと、さまざまな問題が出てきます。その中で一番 音楽の完成度や表情に影響するもののひとつが、曲の解釈の相違です。同じ楽譜や参考演奏を 前にしても、メンバー一人一人によって感じることが違います。その当然の結果として、同じフレーズに どのように意味付けをし、どのように演奏したいか、という考え方も異なってきます。
この考えの相違は、そのままでは音楽が食い違い、ちぐはぐになってしまう原因になるので、何らかの
方法で解決する必要があります。一番手っ取り早いのは、指揮者などの代表者一人の解釈に
合わせてしまう方法です。確かにこうすれば簡単に音楽の演奏が統一できます。
でもこの方法だと、メンバーが素晴らしい曲想をもっていたとしても、それが日の目を見ることは
ありません。また、奏者はどうしたらいいのかすべて与えられるので、演奏する曲について深く考える
必要もなくなりますし、考えても採用されないので無駄になってしまいます。その結果、メンバーは
ただ指揮者の言うままに音楽をするだけになってしまいます。
もちろんそれでも、音楽がだんだん仕上がっていくことを実感できるので、吹いていてそれなりに
楽しいでしょう。でも、自己主張ができているかといえば、不満が残ります。
では、メンバーの解釈をできるだけ生かすとしたら、どんな方法があるでしょうか。一人の解釈に
頼らないのであれば、複数のアイディアをその都度出し合って、取捨選択したり、議論することで
より新しい考えに融合・昇華させていくことが必要になってきます。このように言葉で書くと
なんということもないようですが、実際にやってみると非常に大変なことであることがすぐわかります。
まず、考えの対立があった時点でその部分の練習が止まってしまいますから、練習を進めるのに時間が
かかります。次に、選択や議論をみんなでするのですから、メンバー全員が曲のことを深く知っている
必要があります。また適切な判断をするためには、全員がしっかり自分の頭で考えなくてなりません。
さらに、指揮者やリーダーは、このような面倒ともいえる過程を何度も繰り返しながら、バンドを
運営していかなくてはなりません。
このように大変な作業ではあるのですが、そのような過程を経て創りあげられた音楽は、聴き手を 感動させる名演奏になっていることが非常に多いのです。それは、メンバー全員が「自分たちの音楽を 創りあげる」という作業を通して音楽を知り尽くし、音楽を自信と愛情を持って奏でているからでしょう。 そして、この作業はしんどいけれども、新しい解釈を生み出しながら創りあげていく作業が、とても 楽しいことであることを知っているからでしょう。
ここまでの文章と、逆説のやり方を、一度見比べてみてください。
音楽を創りあげる手法が全く反対であることに、すぐに気づくのではないでしょうか。
では、逆説が金賞をとることにのみ注意してまとめた練習方法であるならば、ここで述べた手法では
いい賞は望めないのでしょうか。そんなことはありません。僕の高校時代、この方法に限りなく近い
考え方で練習して優秀賞(金賞に相当)を頂いたことも多いですし、後輩はこのやり方で小編成の関西大会に
出場したこともあります。また、他の団体でも似たような方針の運営で素晴らしい演奏をしたバンドが
多くあります。これらの実績からいっても、決して賞が望めない方法ではないはずです。
ただ、この方法は時間がかかりますし、全員に大きな負担を強いるのも事実です。その結果、目標まで たどり着けずに本番を迎えることになってしまったり、途中であきらめてしまって方針転換し、そのため 中途半端な演奏になってしまうこともあります。事前の覚悟と、実行力、先を見通す力が必要です。
最後にもうひとつ。このような演奏をしたバンドの関係者は、口をそろえて「賞を狙ったつもりはない。 いい演奏をしようとしていたら、たまたまいい賞をもらったんだ」といいます。この謙虚な心構えと 音楽への愛情が、一番大事なのかもしれません。