一般的なアンサンブルの場合、指揮者はいません。このようなときは、指揮者の意志を中心とする 音楽の構成はできません。奏者同士が直接ぶつかることになります。また指揮者がいる場合でも、 状況によっては同じ事が起こります。このような時、奏者同士の意志疎通が重要になってきます。
奏者間で意志疎通を図る一つの例として、ロックバンドを考えます。ここでは、
ギタリストの友人に聞いた話を引いて、それを元に考えましょう。
どんなバンドでもそうですが、たいていの場合どこかのパートがテンポやリズムの基礎になります。
ロックバンドの場合はまずドラム、その次にベースが担っています。でも、そのほかのパートの人も、
必ず自分の楽器を演奏しながら、それら基礎となる楽器を感じているといいます。
自分は違うことをしているのだけれど、ドラムを自分でたたいている感覚というと、
わかりやすいでしょうか。その自分のフィーリングに実際のドラムが合えば非常に
機嫌よく進むけど、少しずれていたりすると、妙な感じになるのです。
そこで、お互いの腹を探り合うようなことをするそうです。実際には、ドラム奏者も
ギターなど他の楽器を感じているので、そのそれぞれの感じている架空の音と、
実際の音を、何回も合わせることで寄せていくのです。その結果、自分のはじめの理想とは
若干異なったところに落ち着くことも多いのですが、でもそれはそれで一つの音楽としてみたときに
うまく混じり合って納得できるものになっているといいます。
この話の中には、押さえるべきポイントがいくつかあります。まず、どのパートであっても
必ず他のパートを自分の中で持っているということです。何も考えないで演奏すると、
自分のフレーズだけになってしまいがちですが、これでは周りと合わせるのも無理な話です。
架空のパートを持つことが、音楽を一体化するときのキーワードになっているのです。
また、その架空のパートが自分のパートより遠い位置にいる、すなわち自分と役割が違う
ものであるということも注目に値します。さらに、自分の持っている音楽観を
損なわない範囲であれば、はじめの自分の音楽から離れることをあまり躊躇しないということもあります。
これらのポイントは、我々が合奏するときにも大事になってきます。お互いに合わせるといっても、
自分の音楽しか持っていなければ、それは非常に困難です。それも、自分と似たパートだけではなく
対極にあるパートまで気に留めることで、音楽全体を見渡すことが大事なのです。
はじめの音楽に固執しないというのは一般的にはとても難しいことですが、柔軟に考えを
修正することが、より豊かな音楽を造る早道であるということに気づいていれば、
うまく対応できるのではないでしょうか。
ところで、ここまであげてきた指揮者や他の奏者との微妙なやりとりは、 確かに重要ですが、同時に心理的負担の大きい作業でもあります。下手をすると、 人間関係までがギスギスしたものになりかねません。そういうリスクをさけて、 何とかうまく調整をつける方法はないのでしょうか。
一つ参考にしたいのは、こういう言葉を介さないやりとりを、一種のゲームのごとく扱ってしまう
ということです。具体的には、あるターゲットを自分なりに定めて、そのターゲットに
音楽で何かを伝えて自分の思い通りにさせてしまうというのです。たとえば、あるパートに
もっと音量を出してほしいと感じたときに、そのパートが大きな音を出したくなるような
吹き方をしたりするのです。それが伝われば大成功ですし、伝わらなければ他の方法を試したりします。
こんな事を繰り返していると、自分の意志を他に伝えることと同時に、他の奏者の意志を
読みとる力も付いてきます。一人一人がそうなれば、互いの気持ちを尊重しつつ
みんなが納得できるポイントに近づくことができるようになるのではないでしょうか。
ただ、これを実行するには、合奏に参加する時点で、自分の演奏に関して不安がない状態に なっていなくてはなりません。早指ができないとか、ppのピッチなどに不安があったりすれば、 そんなことを考えている余裕はなくなってしまいます。合奏に出る前に充分な練習をして、 不安のない状態で合奏にのぞみましょう。