私は、楽器に住んでいるキイの一人です。みなさんご存じかとは思いますが、 下管の一番下のトーンホールをふさぐキイでございます。私は誰かさんと違って、 普段からよく演奏に参加させていただいています。特に、みなさんの指の動きと トーンホールをふさぐタンポの動きを伝える役として、クラリネットに住んでいる キイの中でも、とりわけ重要な仕事をしていると自負しております。
そんな私ですが、一つ困ったことがあるのです。ご覧になればすぐにわかりますが、
私の体はその大部分が空中に浮いた1本の棒です。もちろん両端にキイポストがいて、
楽器本体にくっついているのですが、真ん中の部分は宙ぶらりんなのです。もちろん、
私の仕事を果たすためには、真ん中を支えてもらう必要もありませんし、あちこち
支えられてしまったら、かえって動きにくくて迷惑です。
でも、私に限らず「棒」というものは、への字に曲げる方向の力には非常に弱いんです。
ちょっとぶつけられたりでもしたら、たちまち折れ曲がってしまいます。もし
そんなことになれば、私は動くことができませんし、みなさんだって困るでしょう。
もちろん、どこかにぶつかることもあります。でも私たちに一番多いけがは、楽器を組み立てたり
片づけたりするときに抱きしめられる時に起きるんです。そうです。楽器がうまく
ばらせないからといって握りしめられると、私たちは少しずつ曲がってしまうのです。
みなさんにお願いします。本当に私たちのことを大事に思ってくださるのなら、 抱きしめないでください。そうしていただけることで、私たちも元気に働くことができますし、 みなさんも幸せになれると思うのです。