私たち、クラリネットのキイには正式な名前があるのかどうか、私たち自身も
よくわかりません。ほとんどの方は、レジスタキイのほかは「これ」なんて指示語で
済ましているのかもしれませんね。
そういうわけで、私は文字通り名乗るほどの名前を持たないんですが、わたしは、
キイの中ではずば抜けて長い体をしています。下管のキイも確かに長いんですけど、
あの人たちは何人かが一組で一つの仕事をしてますからね。私は一人立ちしてますから。
そう、私は上管の4人姉妹の長女です。こう長々と説明しないといけないなんて、
ちょっと困ったものですね。
実は私、いつもすごく寂しい思いをしているんです。私たち4人兄弟に関わってくださるのは
右手の人差し指なんですけど、あの人はいつもずっと遠くの下管のところにいるんです。
まあ、あの人の一番の仕事はトーンホールをふさぐことですから、それは仕方ないんですけど、
たまに私たちのところに来ても、ほとんどは一番下の妹のところにしか来てくれないんです。
そりゃ確かに、あの人から見れば一番近いところにいる訳なんですけど、ちょっとえこひいきが
過ぎるような気がするんです。たまに上の方まで来ても、2番目の妹のところにくるだけで、
私のところや、3番目の妹のところには、滅多に来てくださらないんです。
わたし、あまりにも寂しかったので、調べてみたんです。私の出番ってどのくらいあるのかって。
そうしたら、たった一つしか見つからなかったんです。それも、普段の音楽では
ほとんどお目にかかれない音の、何番目かの変え指として。私、あまりにショックで
固まってしまいました。
どうして私は生まれてきたんでしょうね。滅多にでてこない音の、滅多に使わない
替え指のためだけに、ここにいるのでしょうか。そしてほとんどの場合、一度も
人差し指に触ってもらうことなく、引退するのでしょうか。
お願いです、ほんのちょっとでもいいから、私に出番をください。・・・でも、きっと
叶わない望みなんでしょうね。