キイにはメッキがしてあります。実はメッキという加工はそれほど簡単なことではありません。 それにも関わらず、メッキ加工をするのはなぜでしょう。
もし、メッキを省略して洋白の地のままで置いておけばどうなるのでしょうか。
みなさんすぐに思い当たると思いますが、金属はごく一部の例外を除いて放置すればそのうち
さびてきます。洋白もその例外ではありません。特にキイのように手の汗や油などにさらされる場合、
すぐに錆が浮いてしまいます。
キイが錆びてしまえば、もちろん見た目にも美しくありません。また、その錆を削ったりして落とすと、
その分キイの強度はそがれてしまいます。また、一般的に金属のさび(=酸化物)は、元の金属より
もろい場合が多いのです。いずれにしても、そのうちキイが折れてしまうかも知れません。
とにかく、キイをそのまま置いておくのはあまりよくありません。
ちなみに、銀も錆びます。しかし、銀の錆(酸化銀)は、銀の表面に非常に薄い膜を作ると
それ以上進行しません。酸化銀の膜を通して銀の色が見えるので、錆びていないように見えるのです。
キイを、錆びにくい加工をしたステンレス鋼で作ってみるとどうでしょうか。 ステンレスは、鉄にニッケルやその他の金属を混ぜて錆びにくくした合金です。加工性は 洋白より硬い分劣りますが、ここではうまくその問題をクリアできたと仮定してみます。 ところがそれでも、まだステンレス鋼をキイの材料にしにくい理由があるのです。
キイにステンレスを使うと、全く別のところで問題が出てきてしまいます。
それは、ステンレスに火を当てると、その跡が残ってしまうということです。キイは、
一枚の板を叩いてそのすべてを作るのではなく、いくつかの部品をろう付けして
作る部分が多くあります。また、タンポをつけるときも、本式はキイを加熱して
松ヤニでつけるのです。ステンレスでこの加工をすると、その跡が残ってしまうのです。
この加工跡は、ステンレス電車のように大きいボディーに少しだけ付いているのであれば
さほど目立ちません。しかし、キイの場合のその跡は全体の半分以上に付いてしまいます。
これでは、せっかくステンレスを使っても、仕上げ加工を何かしないといけなくなってしまうのです。
こうしていろいろ考えてみると、結局のところ現状では、今のキイの形態が一番 理にかなっているということが分かります。もちろん、これからの科学技術の進歩に従って、 変わっていくこともあるでしょうが、やはり先人達が試行錯誤を重ねてできた物というのは 偉大ですね。