私たちは、クラリネットを吹く際に息を吹き込みます。すると、管の中の
空気は、ある速度で移動します。当たり前のことですが、これが少し厄介な
問題を引き起こします。
それは、音波を作っている空気そのものが移動してしまうので、静止状態と
振動の条件が変わってしまうことです。具体的には、管の中にできる振動の
周波数が、下へ向かうものと上に向かうもので違ってきてしまうのです。
そういっても、いまいちぴんとこないかもしれません。これは、こういうことと 似ています。救急車がサイレンを鳴らして走っていると、近づくときは音が 高いのに、目の前を過ぎ去ったとたん音がぐっと下がります。このときの 「高い音」と「低い音」が同時に管の中に発生してしまうのです。本当は原理が 少し違うのですが、イメージとしてこのことが奇妙であることはなんとなく わかるでしょう。
では、実際にどのくらい差が出るのか調べてみましょう。
まず、息の早さを計算します。成人男子の肺活量は、だいたい4000t
位といいます。実際にはそれを100%演奏で使っているわけではないので、
それよりもっと小さい値として、一回のブレスで吸う息の量を3000t
と仮定します。この息をどれだけかかって吐いているかですが、とりあえずffの
ロングトーンは20秒くらいが限界だと仮定して、20秒とすると、1秒あたりの
息の量は150t(=150p3)です。
一方、管の内径は一番狭いところで14.6oですから、断面積は1.67p2
になります。以上のことをあわせると、クラリネットの管内の空気の移動速度は、
1秒あたり89.8pと算出されます。
次に、音波の早さを考えます。息の温度は35℃くらいなのですが、このときの 音速はだいたい1秒あたり345mです。クラリネットの最低音のとき、すなわち管を 一番長く使ったときの長さが0.67mですから、音波が管の端から端まで飛ぶのに 1.9*10-3秒かかります。たった0.0019秒しかからないのです。 この間に、管の中の空気は1.7*10-3m、すなわち1.7oだけ進みます。
この影響を、管内を音波が上に行くときと下に行くときの周波数の差で考えてみます。
まず、下に行くときは、息の流れが管を短くするかのように作用するので、計算上の
管の長さが668.3oとなり、これを元にした周波数は129.05ヘルツになります。
一方上に行くときは、管の長さが長くなったのと同じ状態になりますから、計算上の
管の長さは671.7o、周波数は128.40ヘルツになります。その差わずか0.65ヘルツです。
実際の管楽器は、単純な一つの振動で音ができているのではなくて、様々な振動が
重なってできています。その大きさの割合が変わることで音色が変化しているのですが、
ここで出てきたような1ヘルツ以下の差の振動は、常に起こっているものであるので、
息の流れによる影響は、クラリネットに関してはほとんど無視できると考えて
いいでしょう。
低音楽器になると、管の長さが飛躍的に長くなるので、音波が端に到達するまでの
時間は長くなります。でも同時に管の内径が大きくなって空気の速度も遅くなるので、
やはり影響は小さいと考えられます。