みなさんは、富士山に登ったことはありますか? もしかすると「登ってみたけれど 頭が痛くなって途中で断念した」という方もおられるかもしれません。これは 高山病の一種ですが、簡単にいえば、高度の高いところでは空気が薄く、それに 体が対応できずに起こる現象です。
ところで、空気が薄いということは、同じ体積の箱の中に入っている空気の量が
少ないということでもあります。言い換えれば、密度が低いわけです。固体の場合、
密度が異なると音の伝わる速度も変わってきます。このため、同じ大きさに
作っても、実際に鳴る音が変わってしまうこともあります。
同じように、もし空気の密度が変わることで音速が変わっていれば、A=440Hz を
実現する楽器の長さも変わってしまいます。富士山頂でチューニングした楽器を
そのまま地上に持ち帰ったら、どのくらい狂ってしまうのでしょうか。
では、気体中の音速を実際に求めてみましょう。
音速は、気体の状態方程式
pVγ=Const. ・・・(1)
と、波動方程式
∂2φ/∂2x2+∂2φ/∂2y2+∂2φ/∂2z2−c-2∂2φ/∂2t2=0 ・・・(2)
から求めることができます。(1)式の両辺を全微分し、質量不変の原理を用い、さらに
(2)式を用いると、導出の過程は省略しますが、最終的に
c2=γP/ρ=γRT/M ・・・(3)
が得られます。ただし、γ:定圧比熱と定容比熱の比、P:圧力、ρ:密度、
R:気体定数、T:絶対温度、M:1モルあたりの気体の質量、c:音速 です。
(3)式をよく見ると、中辺の気圧Pが、右辺では消えてしまっています。
これは、理想気体の状態方程式
PV=RT ・・・(4)
で変換しています。いくら気圧が下がっても、それにあわせて体積あたりの
密度も同じ割合で変化するので、最終的に「音速は気圧の影響を受けない」
という意味の式が得られるのです。
ただ、空気は完全な理想気体ではないので、厳密には(4)式が完全には
成り立ちません。その分は気圧の影響を受けるのですが、その大きさは
気温の影響などに比べれば、非常に小さいものです。
また、現実には高度が上がるに従って気温が低下します。その割合は、高度10000mまでは
-6.5℃/1km で表すことができますので、富士山頂では地上より25℃くらい
低いことになります。この結果として、山頂の音速は地上より遅くなります。
このコラムでの計算は「気温は同じ」という条件下で行っていることを
頭にとどめて置いてください。
なお、気体の状態方程式と波動方程式から(3)式を導出する過程は、 東京工業大学国際開発工学専攻上田研究室の 「波動論1」講義資料(PDFファイル)が 参考になるかと思います。